歯周病と全身の関係 RELATIONSHIP

歯周病と全身の関係

PERIODONTAL AND SYSTEMIC 歯周病と全身疾患との関係

歯周病と全身疾患との関係

これまで、歯周病にかかると歯を失う原因になる、あるいは、ものをよく噛めなくなるといったお口の中の問題としてだけ扱われることが一般的でした。しかし、歯周病の問題はそれだけにとどまらず、実は全身にもさまざまな影響を及ぼします。たとえば妊娠されている方でいうと低体重児早産の原因になったり、また、心臓血管疾患や糖尿病などがある場合は、それを悪化させるなどの事実が次々と明らかになってきています。

この研究が盛んな米国では、すでにperiodontal medicine(歯周医学)という研究医療体系もつくられています。これまでは、歯周病は口の中だけで問題を起こす病気と考えられてきましたが、口の中だけではなく、全身の健康へも影響を及ぼすことが最近の研究によってわかってきたのです。

歯周病の広がり

歯周病の広がり
歯周病の広がり

歯周病の直接の原因はお口の中の細菌です。細菌は歯垢(プラーク)という塊を作り歯肉に炎症を起こします。この炎症を起こした歯肉の面積を全部あわせると、歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝)が5~6mmの中等度の歯周病の場合で約72cm²となり、これは大人の手の平の面積とほぼ同じ大きさとなります。一般の方が歯周病のイメージから想像するより、はるかに大きな範囲で炎症が広がっているわけです。

リスクとしての歯周病

リスクとしての歯周病
リスクとしての歯周病

歯肉が炎症を起こすと、歯肉中に侵入した細菌や細菌が産生した有害物質が血液中に流れ込みます。これらの細菌や物質は、血管の中に入り込んで全身の各器官に拡がっていきます。全身の器官に達したこれらの細菌や物質が、さまざまな病気に関わっていることが最近になりわかってきました。

歯周病は慢性疾患であるため、炎症を起こした歯周組織(歯肉)において細菌や有害物質が持続的に産生され、さらにそれが持続的に全身に波及し続けています。このことからも、歯周病が全身に何らかの影響を及ぼし得るリスクとなることは容易に想像できると思います。現在、関係があると考えられている病気には、動脈硬化などの血管系の病気、脳梗塞、脳卒中、心臓疾患病、糖尿病、腎臓病、関節リュウマチ、肺炎などの呼吸器疾患、早期低体重児出産などが挙げられています。

歯周病と糖尿病

歯周病と糖尿病
歯周病と糖尿病

昔から、糖尿病による血糖値の高い状態が長く続くと歯周組織(歯肉)に炎症を起こしやすくするだけではなく、歯周病の進行を早めてしまうことが知られていました。そして、糖尿病の方はそうでない方よりも細菌感染を起こしやすかったり、傷の治りが遅くなることが知られていました。

これは、糖尿病にともなう白血球(好中球)の機能低下、微小血管の障害、コラーゲンの代謝障害などが歯周病の重篤度に深く関係しているからです。

また、糖尿病の方の体の内で蓄積されてくる糖化蛋白質が免疫細胞(マクロファージ)を刺激することで生体物質(サイトカイン)が産生されます。この生体物質が歯周病の炎症を強める働きを持つことが最近になりわかってきました。そのため、歯周病は腎症(腎機能障害)、網膜症(視力低下)、神経症、大血管障害、小血管障害の慢性合併症に次ぐ、糖尿病の第6番目の合併症とも言われるようになっています。

そして近年では、歯周病による歯肉の炎症自体が、糖尿病を悪化させる要因のひとつであることがわかっています。歯周病の炎症によって生じたさまざまな物質や歯周菌が産生する毒素が血液中に入り込み、インスリンの機能を阻害し、インスリンが作用しにくくなるためです。さらに、歯周病治療を行なうことがHbA1cの値を平均0.4~0.6下げることがわかっています。糖尿病の専門性をもつ医師による糖尿病治療を受ける際には歯周病治療を併用することがたいへん有効であり、日本糖尿病学会でもそのことを推奨しています(日本糖尿病学会推奨グレートA)。

歯周病と心臓血管疾患

歯周病と心臓血管疾患
歯周病と心臓血管疾患

疫学研究(※)により、歯周病が動脈硬化性疾患のリスク因子のひとつと考えられるようになりました。これまでの研究結果によると、歯周病にかかっている人はかかっていない人に比べ、1.5~2.8倍も動脈硬化性疾患を発症しやすいことがわかっています。また、動脈硬化性疾患の原因となるアテローム性動脈硬化症の程度が、歯周病と関係していることなども報告されています。



歯周病で見られる炎症は、歯肉の慢性炎症であり、最近ではこの慢性炎症を持った歯肉という組織の存在そのものが、動脈硬化の発症に関与していることがわかってきました。そもそも、動脈硬化そのものが慢性炎症であり、体にある動脈硬化以外の慢性炎症がそれぞれ炎症性物質を放出し、それが体中を巡って他所でさまざまな慢性疾患を引き起こしているのです。つまり、歯肉の慢性炎症は単独で存在しているのではなく、体に存在する他の慢性炎症と関連して、それぞれに炎症を強めたり、進行させたりしているということになります。

また、歯周疾患を引き起こす歯周病原性菌が血管内に入ることで、菌血症を発症することがあります。全身状態が悪い方や、抵抗力が低下しているご高齢の方などの場合、それが敗血症へ移行することもあります。血管内に入った歯周病原性菌が、血流にのって心臓へと到達し、血管内皮細胞やアテローム(脂肪性の沈殿物)中のマクロファージ(白血球)を活性化するなどの影響も考えられており、アテローム部位からPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナスジンジバリス)など、歯周病原性細菌のDNAが検出されたという発表もあります。

また、歯周病と心内膜炎という心臓の病気との関係についても以前から言われています。心臓弁膜症など心臓の弁に障害がある方、人工心臓弁を入れている方の場合、弁の周りの血液が停滞しやすい場所で、血液中に入り込んだ細菌が弁に定着して増殖することがあります。この定着・増殖した細菌によって、細菌性心内膜炎が引き起こされます。細菌性心内膜炎を起こした心臓弁から歯周病原菌が検出されたことから、歯周病と細菌性心内膜炎との関連性がはっきりしています。

※地域社会や特定の人間集団を対象として、病気の発生状況など健康に関する事象の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする医学研究のこと。

歯周病と腎臓病(CKD)

歯周病と腎臓病(CKD)
歯周病と腎臓病(CKD)

従来から透析を受けている方の多くに重症の歯周病が見られることが指摘されていましたが、ここ15年ほどのさまざまな研究により歯周病と腎臓病との間に関連性があることがわかってきました。以前は、歯周病と関連のある糖尿病を通じて腎機能を悪化させると言われていましたが、現在では腎臓病の発生と関係がある動脈硬化などにより直接に歯周病が腎臓病と関連していることが明らかになってきました。さらに、慢性腎臓病により免疫機能の低下や骨代謝異常が起こり、それにより歯周病の進行が影響を受けることもわかっています。

また、米国の健康調査によると歯周病のある腎臓病患者さんと歯周病のない腎臓病患者さんとでは、歯周病のある腎臓病患者さんのほうが10年後の死亡率が約10%高いことが示されています。

歯周病と肺炎

歯周病と肺炎
歯周病と肺炎

口腔内物質が食道に入らずに気道へ入ってしまうことを誤嚥といい、この際に一緒に口腔内の細菌が気管を通じて肺に達して肺炎を起こすことがあり、誤嚥性肺炎と呼ばれています。この誤嚥性肺炎の病巣から歯周病原菌が検出されており、歯周病が誤嚥性肺炎を引き起こす可能性のあることが指摘されています。

また、歯周病以外にも口の中の細菌が増えると誤嚥性肺炎を起こす危険性が高まり、口の中をきれいにする口腔ケアを行なうことがリスクを軽減し、誤嚥性肺炎を予防できることがわかっています。

歯周病と低体重児

歯周病と低体重児
歯周病と低体重児

妊娠期間が37週未満の出産を早産と言い、体重が2,500g未満の新生児は低出生体重児と定義されています。産科領域ではいままでもさまざまな低体重児出産や早産への対策が取られてきましたが、過去20年来、これらの問題の起こる割合は減少しませんでした。このようなことから、出産には直接の関係がないと思われていた歯周病のような遠隔の組織の細菌感染症が最近になり注目されるようになってきました。

歯周病と低体重児の関係

これまでの動物を用いた研究結果などから、慢性の歯周病がある時につくられる生理活性物質(特にプロスタグランジンE2)が、血流を介して子宮に到達し、子宮収縮と子宮頚部の拡張を引き起こすことで早産となると考えられています。

妊娠中に歯周病にかかった歯肉から出てくる生理活性物質は出産に負の影響を及ぼしていると考えられます。これらのことから、母親が歯周病にかかっていると低体重児出産や早産を起こすリスクが高くなります。母親が進行した歯周病にかかっている場合は、低体重児を出産する率が7倍以上になるという報告もあります。歯周病を未然に防ぎ、軽度のうちにしっかり治療して、丈夫な赤ちゃんを出産したいものです。

参考文献

  • ・Cigarette smoking as risk factor in chronic periodontal disease. Bergstrom (1989)
  • ・Periodontal disease in non-insulin dependent diabetes mellitus. Emrich et al. (1991)
  • ・Occurrence of periopahtogens in smoker and non-smoker patients. Preber et al. (1992)
  • ・Receptor-specific induction of insulin-like growth factor 1 in human mnocytes by advanced glycosylation end
  • ・product-modified proteins. Kirstein et al. (1992)
  • ・Periodontal disease experience in adult logn-duration insulin-dependnt diabetics. Thorstensson & Hugosson (1993)
  • ・The pathogenesis of human periodontitis: an introduction. Page et al. (1997)
  • ・Relationship between smoking and dental status in 35-,50-,65-,and 75-year-old. Axelsson et al. (1998)
  • ・Risk for periodontal disease in a Swedish adult population. Cross-sectional and longitudinal studies over two decades. Norderyd (1998)
  • ・Epidemiology of periodontal diseases: an update. Papapanou et al. (1999)
  • ・Smoking-attributable periodontitis in the United States: findings from NHANES III. National Health and Nutrition Examination Survey. Tomar & Asma (2000)
  • ・Clinical Periodontology and Implant Dentistry 4th. Blackwell Publishers.

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